前立腺癌は50歳以上の男性に多くみられる癌です。全世界で罹患数は、年間40万人と報告され、すべての男性の癌の9.2%を占め、4番目に多いとされています。日本においても近年の高齢化、食生活の欧米化と検査精度の向上により、男性の癌の中で患者数は第1位と報告されています。全世界で前立腺癌の死亡数は、年間16万人以上と報告されており、米国では25年以上前より男性の癌死亡原因の第2位であったため社会問題となっていました。現在は前立腺癌検診の普及と適切な治療により死亡率は低下しています。日本では前立腺癌死亡数は現在も増え続けており、2003年には8,418人、2009年には1万人以上が前立腺癌で死亡しているとされています。死亡数は将来も増え続けて、2020年には2000年の2.8倍になると予測されています。
前立腺癌は血液検査で前立腺特異抗原(PSA)を測定することで、その可能性を調べることができます。現在、日本でも特定検診の項目にPSAを導入するようになりましたが、全国的に普及しているとはいえません。また、70歳以上の高齢者に実施していることが多いですが、前立腺癌は50歳以上から罹患率の上昇を認めており、50歳を超えたらPSA検査を一度受けていただくことをお勧めします。
PSA(前立腺特異抗原)は、①前立腺癌の精密検査(前立腺生検)の必要性の目安②各種治療後の前立腺癌の状態(回復・悪化)の視標として、非常に信頼できる検査値(腫瘍マーカー)です。血液検査で簡便に測定でき、泌尿器科が専門でない施設でも十分に確認可能です。通常、3ヶ月に1度の採血で前立腺癌の状態を把握します。癌の疑いのある方は3~6ヶ月に1度の採血で、正常値の方は1年に1度の採血で経過を見ます。
PSAとは、前立腺細胞が産生する蛋白分解酵素であり正常細胞でも癌細胞においても産生されます。癌細胞では、正常細胞よりもPSA産生能力は低いのですが容易に血液中に移行するため高値を呈します。また、前立腺癌以外でも前立腺肥大症、前立腺炎においてPSA値は上昇します。そのため、PSA値が高いからといって癌が必ず存在する訳ではありません。主治医と相談の上、今後の検査の方針を決定してください。
数値が高いほど前立腺癌の疑わしさ=前立腺生検のお勧め度が増します。泌尿器科を受診してください。
PSA 2~4ng/ml:正常域(直腸診でしこりに触れる場合、生検の適応となります。)
4~10ng/ml:グレーゾーン
⇒若年(60歳前後)の方、また直腸診および
画像検査(MRIなど)で癌の存在が疑われる場合、生検の適応となります。
⇒癌検出率=25~30%
10ng/ml以上:積極的な生検の適応となります。
⇒癌検出率=50~80%
前回値より上昇していれば、前立腺癌の疑わしさ=前立腺生検のお勧め度が増します。泌尿器科を受診してください。
※ 前立腺生検を特に強くお勧めする方の例
直腸診でしこりに触れる方(癌の疑わしさが増すため)
PSAが10ng/ml以上の方
PSAが4~10ng/mlで、かつ若年(60歳未満)の方
PSAが 1.5→2.5→3.3と基準範囲内で年々上昇する方
前立腺生検とは、直接前立腺組織を採取することで癌組織の有無の確認を行う検査です。 方法としては、①経直腸式(肛門から超音波のプローブを挿入し、針で採取します。麻酔は基本的に施行しませんが、疼痛が強い場合は仙骨麻酔を行います。)②経会陰式(肛門から超音波プローブを挿入しますが、組織は会陰部から針を穿刺し採取します。麻酔施行します。)の2種類がありますが、高槻病院では①経直腸式に生検を施行しております。基本的には外来で施行可能ですが、ご高齢の方(70歳以上)もしくは基礎疾患がある方には1泊2日の入院をお願いしています。計10ヶ所の組織の採取を行い、癌細胞の有無および前立腺癌を認めた場合、悪性度などの診断を行います。
定期的な採血でPSA値を観察し、設定値へのPSA上昇時には当院に連絡が入ります。
かかりつけ医からPSA上昇およびその他の連絡・相談があった際、再度精査した後、再生検を検討・実施します。
前立腺癌と診断された方は、まず癌が全身に転移していないかどうかの検査(画像検査)を行います。前立腺癌は主に①リンパ節②骨に転移しやすい為、画像検査は下記の検査を行います。
A) 胸部~骨盤部造影CT:リンパ節転移の有無、またはその他の臓器に転移および他の病気が無いかの診断を行います。
B) 骨シンチ:骨に転移の有無の診断を行います。
C) 前立腺部単純MRI:前立腺癌が、前立腺の中に限局(とどまっているか) しているかどうか、もしくは前立腺の外に浸潤しているかの診断を行います。
上記の結果を元に、治療方針を患者様と相談の上決定していきます。
A) 手術療法
①開腹手術
B) 放射線療法:
①外照射: 強度変調放射線療法(IMRT)
C) 内分泌療法:
D) 無治療経過観察(待機療法):
良い適応:
期待余命が10年以上でPSA 10ng/ml,Gleasonスコア8以下,かつT1c-T2bまでが,前立腺全摘除術の理想的な適応基準であると考えられ,この場合にはおおよそ5年PSA非再発率は70-80%,10年PSA非再発率は50-70%程度とされています。 しかし、近年では75歳以下の限局性前立腺癌であれば手術の適応があるともされています。
治療内容:
開腹手術で前立腺および精嚢を摘出します。
手術時間:
麻酔(全身麻酔)にかかる時間を含めると開腹手術で3~4時間程度
入院期間:
おおよそ手術後7~10日間程度
主な術後合併症:
○尿失禁⇒術後3~6ヶ月後には軽減・消失します。
○性機能障害⇒通常の術式では、勃起不全は必発です。
☆当科では、性機能温存の術式も施行しておりますので、ご希望の方は主治医にご相談ください。
良い適応:
期待余命が5年以上あり、限局性もしくは局所浸潤性前立腺癌であること。前立腺体積に関係なく施行可能。PSAが高い方(20以上)および悪性度の高い方(Gleason scoreが8以上)では内分泌療法の併用が有用とされています。
治療期間:
2~3ヶ月の外来通院(1回15分程度)
主な合併症:
○排尿障害
○皮膚障害
○直腸障害
良い適応:
転移を有する前立腺癌およびご高齢であり局所治療を施行されない方。
☆限局性癌もしくは局所浸潤癌で期待余命が5年以上の方は、他の局所療法をお勧めします。
治療内容:
男性ホルモンを抑制することで前立腺癌の増殖を抑制し癌細胞の細胞死を誘導する。
LH-RHアナログ:1~3ヶ月に1度の皮下注射(外来)
抗アンドロゲン剤:毎日内服
治療期間:
基本的には治療効果がある限り継続します。
ただし、当科では間欠的内分泌療法(治療と中断を繰り返して行う治療法)を行っておりますのでご希望の方は、主治医にご相談ください。
主な副作用:
ほてりや顔面紅潮
女性化乳房(抗アンドロゲン剤):乳房の張り
骨粗鬆症
長期使用では、心血管障害
良い適応:
“臨床的に意味のない癌”が適応となります。
“臨床的に意味の無い癌”とは、治療しなくても患者様の予後に影響の無い癌を意味しています。
ただし、どの癌が“臨床的に意味の無い癌”かははっきりしていません。
当科では、①PSA10以下②Gleason score6以下③腫瘍体積が少ない⇒陽性コア2本以下を適応としています。
治療内容:
定期的な外来受診でPSA採血を行いPSAの上昇およびPSA倍化時間などの観察を行います。
他の治療の導入:
生検を施行し、陽性コアが3本以上・Gleason scoreが7以上となれば他の治療を開始します。
長所:
癌の根治が可能
比較的短期間(2~3週間)の入院で治療可能
再発後に放射線治療が可能(その後の再発には内分泌療法が可能)
短所:
術後の尿失禁(3~6ヶ月でおおむね改善しますが、少量で持続する可能性)および性機能障害
ご高齢(75歳以上)方および基礎疾患の重篤な方は、基本的には適応外
長所:
安全に治療が可能、比較的副作用が少ない
ご高齢の方、基礎疾患のある方でも安全に施行可能
短所:
再発後の治療法は内分泌療法のみ
頻度は少ないが排尿および排便障害、性機能障害
外照射では、長期間(2ヶ月程度)の通院が必要
長所:
侵襲無く治療可
ご心配な点がある方は、泌尿器科外来・他の下記スタッフに遠慮なくご相談ください。
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