大腸は小腸からつながり、肛門に至る消化管の一部です。消化吸収が行われた食物の最終処理をする消化管で主に水分を吸収して排泄に都合のよい状況を作り出します。大腸は「結腸」と「直腸」の2つからなり、口に近い盲腸から上行結腸、横行結腸、下行結腸、そしてS状結腸までを「結腸」、結腸の先で肛門までの腸を「直腸」と言います。
※画像引用:BRAVE CIRCLEホームページより
大腸がんは、かつて日本では少ないがんとされていましたが、戦後から1990年代までに急速に増加してきたがんの1つです。2001年には、大腸がんの罹患数(新たに大腸がんになった患者数)は毎年10万人を超えるようになっており、2020年には、胃がん、肺がんを抜き、男女をあわせた日本人のがん罹患数、罹患率はともに1位になると予測されています。
大腸がんは初期段階では自覚症状がみられないことが多く、異常を感じていない段階でも定期検診などで発見されることが少なくありません。一方、がんが進行すると、「便に暗赤色の血が混じったり、血の塊が出たりする血便」、「便が細くなる便柱細少」、「便が出きらない感じがつきまとう残便感」、「下痢と便秘の繰り返しなど、排便に関する症状」などがみられるようになります。さらには「腸閉塞による嘔吐」、「しこりが触れる」、「腹痛」、「肝臓や肺の腫瘤(しゅりゅう)」など、がんがかなり進行、もしくは転移することによる症状があって、初めて異常に気づくこともあります。
便に目で見てわからないような出血が潜んでいるかを調べる検査です。2日間続けて精査した場合、陽性者のうち、大腸がんが発見される確率は約4%です。確定診断を得るためには大腸内視鏡検査が必要です。
肛門からバリウムと空気を大腸へ送り込みレントゲン撮影を行います。
食事制限と下剤の処置により大腸をきれいにしてから行います。
がんの疑いがあればさらに大腸内視鏡検査が必要です。
下剤で大腸をきれいにしてから行い、肛門から内視鏡を挿入して大腸のなかを調べる精度の高い検査です。当院では、NBIや拡大機能を有する最新の内視鏡を有しており、大腸ポリープの表面構造(ピットパターン)を詳しく観察し、腫瘍か非腫瘍か、良性か悪性(がん)か、早期がんの深達度(根の深さ)といったことを、生検(組織の一部を採取して、病理検査に出すこと)することなしに判断することができます。これにより大腸ポリープなどの病変を見つけた場合、その場で内視鏡診断を下し、経過観察でよいか、もしくは切除が必要かを判断します。また、当院では硬度可変式(スコープの硬さを変更する)や炭酸ガス装置(検査時の腸にたまるガスがすぐに吸収される)を使用しているため、より苦痛なく安全に検査を行うことが可能になりました。
※画像引用:BRAVE CIRCLEホームページより
進行度については日本では大腸癌取扱い規約第7版(2006)に従って分類されます(表1)。
国際的にはTNM分類が使用されます。進行度を設定することにより、過去のデータをもとにした治癒率の目安が得られます。
進行度は0,I,II,Ⅲa,Ⅲb,Ⅳ期の順で進行した状況となります。
深達度 | 肝転移(-)、腹膜転移(-)、他の遠隔転移(-) | いずれか(+) | ||
---|---|---|---|---|
リンパ節転移なし | 所属リンパ節転移(1-2群)が 3個以下 |
所属リンパ節転移が4個以上 あるいは、3群リンパ節転移 |
遠隔リンパ節転移 | |
固有筋層まで | I | IIIa | IIIb | IV |
固有筋層を超える | Ⅱ |
大腸がんは早期で小さなものであれば、内視鏡の先端から器具を出して切除できる場合があります。実際、がんが粘膜の表面にとどまる場合(ステージ0)や、粘膜下の浅い層にあってリンパ節や血管に侵入していないがん(ステージIの一部)では、まずは内視鏡治療を検討します。
内視鏡治療の方法としては、茎をもったポリープを切除するポリペクトミーと、茎をもたない平らながんを切除する内視鏡的粘膜切除術(EMR:endoscopic mucosal resection)があります(図1)。隆起型で、茎のあるポリープに対しては、内視鏡からスネアと呼ばれる金属の輪をかけて、高周波の電流を流して焼き切ります。これをポリペクトミーといいます。一方、茎がなく正常な粘膜に広がっている平坦な大腸がんは、大きさにもよりますが、病変に生理食塩水などを注入して浮き上がらせて、ポリペクトミーの要領などにより切除します。これを内視鏡的粘膜切除術(EMR)といいます。
※画像引用:BRAVE CIRCLEホームページより
内視鏡治療では、お腹を開かずに治療をすることができ、出血や痛みが少なく患者さんの負担が小さいという利点があります。また、がんの大きさなどによっては、2~3日の入院が必要となることもありますが、多くの場合入院の必要はありません。
一般に内視鏡治療では手術に比べ合併症は少ないと考えられていますが、それでも合併症は全くないわけではありません。日本内視鏡学会では、治療中に内視鏡から多くの電流が流れて大腸に穴を開けてしまうこと(穿孔:せんこう)や、腫瘍を焼き切るときに、切り口から出血が起こることがそれぞれ1%以下にみられたと報告しています。
また、内視鏡治療でがんを切除した後、がんが残っていないかどうか、その組織を顕微鏡で観察します。その結果、がんがすべて取りきれていなかったと判断される場合は、手術などの追加治療が必要となります。しかし、がんが早期の小さいうちに発見できれば、より負担の少ない内視鏡治療で治癒できる可能性が高くなります。なるべく早期のうちにがんを発見するためにも定期的に検診を受けることが重要です。
最近では、EMRでは分割切除となってしまう早期大腸がんに対してESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)という内視鏡治療が可能となりました。(下図)
※画像引用:オリンパスおなかの健康ドットコムより
大腸がんの治療は、手術による切除が基本であり、早期でも手術が必要な場合があります。病変のある腸管とリンパ節を切除します。病変が周辺の臓器に及んでいる場合には、それらの臓器も一緒に切除します。がんの位置に応じて切除範囲、合併症や危険性も異なります。
病状や手術の方法によっては、人工肛門の造設が必要になる場合があります。直腸がんの場合は、直腸が骨盤内の深く狭いところにあり、そのすぐ周囲には神経や筋肉があるため、切除する範囲によってはがんと一緒に神経や筋肉を切除します。そのため、排便、排尿、性機能に障害が起きることがあります。進行度によっては、神経や筋肉を残す方法(自律神経温存手術、肛門括約筋温存手術)が可能な場合もあります。
最近では、おなかに小さな孔をあけ、そこから小型カメラと切除器具を挿入し、カメラの画像を見ながら病変を切除する腹腔鏡下手術という方法もあります。
大腸がんの手術の後遺症には、軟便や下痢、便秘などの異常があります。また、おなかの張りや腸閉塞、縫合不全や創感染などの合併症を生じることもあります。胃がんと違い、手術後の食事制限は特にありませんが、自分の胃腸の症状に応じて食べ物を調整するとよいでしょう。基本的には、おいしく、ゆっくり、楽しく、食べることです。
大腸がんの治療は外科療法が基本で、早期がんの場合でも手術が必要になる場合があります。結腸がんの場合、切除する結腸の量が多くても、術後の機能障害はほとんど起こりません。リンパ節廓清と呼ばれるリンパ節の切除とともに結腸切除術が行われます。
直腸は骨盤内の深く狭いところにあり、直腸の周囲には前立腺・膀胱・子宮・卵巣などの泌尿生殖器があります。排便、排尿、性機能など日常生活の上で極めて重要な機能は、骨盤内の自律神経によって支配されています。通常、直腸がんに対する手術では自律神経をすべて完全に温存し、排尿性機能を術前同様に残すことが可能ですが、自律神経の近くにまで進行している病変に対しては、神経を犠牲にして病変を確実に切除する手術が必要となります。直腸がんに対する手術は、進行度に応じた手術法があります。
直腸がんの進行度や、排尿機能と性機能を支配する自律神経を手術中に確認し、選択的に自律神経を温存する手術法です。病変を徹底的に切除し、かつ進行度に応じた自律神経温存を行う方法です。全自律神経を温存できれば、男性では射精、勃起(ぼっき)機能を手術前と同様に温存することができます。
以前は肛門に近い直腸がんに対しては、多くの場合人工肛門がつくられていましたが、最近では直腸がんに対する手術の大部分は人工肛門を避けることができるようになりました。病変の切除後に短くなった直腸端と口側の結腸の先端とを、自動吻合器を用いて縫合し、肛門から排便できるように再建する手術法で肛門括約筋温存手術と呼ばれます。肛門の温存が可能であるのは、病変が肛門から4cm以上、歯状線(肛門と直腸の境界)から2cm以上離れている場合とされています。この手術と自律神経温存手術との併用によって、術後の機能障害を軽減することができます。
さらに最近では、歯状線にかかるような、より肛門に近い早期や一部の進行した病変に対し、肛門括約筋を部分的に切除し、肛門を温存する術式が一部の専門施設で行われています。しかしこの術式は、高齢者において術後に頻便などをきたすことにより、逆効果になることもあります。従って、病期の進行度のみならず、年齢・社会的活動力・本人や家族の希望なども考慮に入れた総合的な術式の決定が、極めて重要だといえます。
肛門に近い直腸がんや肛門がんに対しては、人工肛門を造設する直腸切断術という手術を行わなければなりません。
また、高齢者は肛門括約筋の力が低下しており、無理して括約筋温存手術を採用すると術後の排便コントロールが難しい場合もあるので、人工肛門による排便管理を勧めています。専門の看護師(WOC)による充実したストーマ教育により、人工肛門の自立した管理とメンタルケアに努めます。
早期がんや大きな腺腫に対して行われる手術法です。開腹手術ではなく、主に肛門から病変に到達する方法です。術後に、放射線療法や化学療法を追加する場合もあります。
大腸がんに対する腹腔鏡下手術は1990年代前半から国内でも行われるようになり、現在ではこれを行う施設は急激に増加しています。炭酸ガスで腹腔内を膨らませてカメラ(腹腔鏡)を挿入し、その映像を見ながら小さな孔から挿入した器具を用いて手術を行います。病変を摘出し切除後の大腸をつなぎあわせるために、4~6cm程度の創(きず)が1ヵ所必要です。手術時間は開腹手術に比べて長めですが、傷が小さく術後の痛みは少なく、術後7~10日で退院できるなど負担が少ない手術です。
腹腔鏡下手術は、盲腸、上行結腸やS状結腸、上部直腸に位置する、内視鏡的治療が困難な大きなポリープや早期がんがよい対象と考えられてきましたが、最近では横行結腸や下行結腸、下部直腸に位置する病変や、進行がんに対しても行う施設が増えています。施設により腹腔鏡下手術の対象とする条件に差があるのが現状で、大腸がんに対する腹腔鏡下手術を導入していない施設もあります。しかし、十分に経験を積んだ腹腔鏡手術の専門医が担当すれば、進行がんであっても治療効果は開腹手術後と同等であるとの報告はすでにみられます。
放射線治療は、体の外からがんの部位に放射線を照射する局所療法の一つです。一般に放射線治療の目的として、
放射線の副作用は、治療中にみられる症状では、
また、治療後数ヵ月~数年してから現れる副作用(直腸炎、出血、頻便、便失禁など)を伴います。
放射線治療科一般のページ >>大腸がんに対する化学療法は主に2つの目的で行います。1つは、リンパ節転移が確認されたステージⅢの進行がん(もしくはステージⅡで再発の可能性が高いがん)に対し、手術後の再発を予防するために行います(補助化学療法)。もう一つは、手術でがんを切除できなかった場合、または、なんらかの原因で手術ができない場合に、がんが大きくなるのを抑えるために行われます。この場合、患者さんの生存期間を延長するために行います。
化学療法で用いる抗がん剤は、正常な細胞も破壊してしまうため、多くの場合、副作用を伴います。
最近では、分子標的治療薬と呼ばれる新しいタイプの抗がん剤が登場しています。分子標的治療薬とは、正常細胞にも障害を与えてしまう今までの抗がん剤と異なり、がん細胞だけを狙い撃ちするように開発された薬剤です。
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