小児脳神経外科で扱う疾患は、先天性疾患(水頭症、二分脊椎症、くも膜嚢胞、頭蓋骨縫合早期癒合症など)、脳腫瘍、脳血管障害(脳動静脈奇形、もやもや病など)、頭部外傷、機能性疾患(てんかん、痙縮など)まで多岐にわたります。
キーワードは「頭をぶつけた」「頭が大きい・小さい」「頭の形がおかしい」「目つきがへん」「おしりの凹みやゆがみ」「大泉門が小さい・大きい・張っている」などです。
大きなお子さんになると、「頭が痛い」が多くなります。
対象年齢は15歳までですが、先天性疾患の場合はキャリーオーバーして大人になっている方も当科で診察しています。
高槻病院小児脳神経外科は平成24年4月1日に故山崎麻美先生が大阪医療センターから赴任され、開設されました。高槻病院の新生児・小児医療は当科開設以前から充実しており、小児外科もあることから、小児脳神経外科の開設が待たれておりました。筆者も縁あって開設に立ち会うことができ、8年が経過しました。
故山崎麻美先生は約30年間小児脳神経外科に従事され、平成25年に日本小児神経外科学会、平成28年には国際小児神経外科学会の会長を務められるなど、日本を代表する小児神経外科医としてご活躍されてきました。しかし、平成28年11月国際学会の会長を務められた直後に病に倒れ、闘病生活を送られていましたが、平成29年6月13日に永眠されました。
故山崎麻美先生は御高名であるだけでなく、患者様、ご家族様の視点に立った医療を実践されておりましたので、先生に病気だけでなく、心配な気持ち、不安な気持ちを癒してもらった患者様、ご家族はたくさんおられます。私も病気や手術以外のこともたくさん先生から学ぶことができました。故山崎麻美先生が基礎を作ってくださった高槻病院小児脳神経外科を、今後は筆者が山崎先生の御遺志を継いで続けていきたいと思います。
当院では、小児科、成人脳外科、新生児科、産婦人科の協力体制のもと、外傷などの救急疾患、母体搬送や新生児搬送の100%受け入れを目指しております。また、赤ちゃんの頭の形外来開設後、頭蓋骨縫合早期癒合症の手術が増加していますし、低侵襲なエコー検査でスクリーニング可能(乳児の場合)なため、二分脊椎や水頭症疑いの患者様もたくさんご紹介があります。 外来は基本的には予約制ですが、予約なし、紹介状なしの当日受付も、待ち時間は長くなるかもしれませんが、可能です。頭や脊髄のことで心配なことがありましたら、お気軽に御相談ください。
以下、主な疾患について説明してきます。各疾患については以下のサイトが参考になります。
小児慢性特定疾病情報センター
https://www.shouman.jp/disease/
脳神経外科疾患情報ページ
http://square.umin.ac.jp/neuroinf/medical/index.html
1) 水頭症
脳神経外科疾患情報ページ
http://square.umin.ac.jp/neuroinf/medical/601.html
水頭症の治療は、児の年齢や水頭症の原因から、オーダーメイドに手術方法を選択する必要があり、手術方法の選択が一番大切です。従来から行われている脳室腹腔短絡術は、一生異物が入ること、感染や管の閉塞のリスクがあることから、内視鏡治療を希望される親御様が増えています。当科では、生後6か月以降の閉塞性水頭症に対しては内視鏡手術(第三脳室底開窓術)を行っていますが、閉塞性水頭症に分類されないタイプの水頭症や生後6か月未満の乳児、頭囲拡大が重度で急激に進行している水頭症に対しては脳室腹腔短絡術をお勧めしています。手術方法の選択を間違うと、何度も手術を行うことになり、児にとってかえって大きな負担となります。脳室腹腔短絡術は上記のような欠点が取り上げられることが多いですが、昔から行われている確立した手術方法で、適切に手術が行われれば、安全確実な手術です。当科ではミートケ社のproGAVというドイツ製の短絡管システムを使用しています。髄液の流れを調節するバルブ(流れる速度を調節する圧可変式バルブと、体位による髄液の流れを調節する重力可変式バルブ)が二つ埋め込まれていることと、磁石で圧が変化しないということが特徴です。磁石で圧がかわりませんので、MRI(3テスラ対応)や磁石のおもちゃ、電気製品と接触しても大丈夫です。脳室腹腔短絡術の一番の合併症は感染ですが、当科では国際的なプロトコールに則った感染予防を行っており、乳児の感染率は5%と低くなっております。 初期治療として脳室腹腔短絡術を選択した場合も、水頭症の原因が閉塞性水頭症であれば、幼児期もしくは学童期に短絡管を抜去することも行っています。その場合は内視鏡治療を併用する場合もあります。
2) 頭蓋骨縫合早期癒合症
脳神経外科疾患情報ページ
http://square.umin.ac.jp/neuroinf/medical/605.html
手術方法は発見された時期や癒合部位、変形の程度によって選択します。頭蓋骨縫合早期癒合症の手術の一番の目的は頭蓋の形態を改善することですので、形成外科的な視点が大切です。当科では大阪医科大学形成外科や市立奈良病院再建形成外科と連携し、手術を行っています。手術方法は大きく分けると3つあります。
①拡大頭蓋形成術:頭蓋骨をばらばらにしたり、切込みを大きく入れたりして、頭蓋の形態を整えます。大きな冠状の皮膚切開で、骨切除の範囲も広くなります。
② 骨延長法:皮膚切開は大きいですが、骨は基本的には癒合した部分のみ切除し、延長器を取り付けます。一日に1mmくらいずつ3週間くらいかけて延長器のねじをねじって頭蓋を拡大していきます。延長器は3-6か月ほど残したままにして、骨ができてきたら除去します。確実な頭蓋の拡大がえられますが、全身麻酔の手術が最低2回必要で、入院期間が比較的長くなります。
③ 内視鏡支援下頭蓋開溝術+術後ヘルメット療法
最近注目されている低侵襲な手術方法です。骨の柔らかい乳児期早期(6か月以内)の場合、この方法が適しています。2-3㎝の小さな皮膚切開で内視鏡で癒合した縫合の部分の骨を切除します。術後5日ほどで退院可能です。癒合部分の切除だけでは、形態の改善が不十分だったり、後戻りしてしまったりするので、術後約1年間オーダーメードのヘルメットを装着します。後述しますが、頭位性斜頭(いわゆる向き癖による頭部の変形)に対するヘルメット治療を当科では行っており、そのノウハウを生かして、術後の患者様にも応用しています。この治療法は、術後のヘルメット治療がとても大切なため、ヘルメット治療をしている施設でしか行うことができませんので、全国でも限られた施設でしか行えない治療法です。
赤ちゃんの頭の形外来
3) 頭位性斜頭・短頭に対する頭蓋形状誘導療法(ヘルメット治療)
頭位性斜頭(いわゆる向き癖による頭部の変形)に対して、ヘルメット治療を行っています。小児脳外科医と形成外科医がヘルメットのデザインから調整まで行います。
4) 二分脊椎症
脳神経外科疾患情報ページ
http://square.umin.ac.jp/neuroinf/medical/602.html
① 開放性二分脊椎症:脊髄髄膜瘤、脊髄披裂とも呼ばれます。脊髄が皮膚に覆われない状態で露出しています。感染予防のため、生後24時間以内の修復術が必要です。近年は胎児診断技術が進歩しているため、8割以上の赤ちゃんが胎児診断されています。胎児診断については、他の項目で述べますが、当院では37週前後で予定帝王切開で娩出させ、同日に修復術を行っています。水頭症の合併がある場合は、修復術に引き続き、出生当日に脳室腹腔短絡術も行います。術後の感染予防や入院期間の短縮という利点があり、当科では同時手術を行っています。
②潜在性二分脊椎症:脊髄脂肪腫や先天性皮膚洞が主な疾患です。MRIを撮ってからご紹介いただくことが多いですが、当科に初診でこられた患者様は、エコー検査でスクリーニングを行います。病気が疑われた場合のみ、MRIを行います。低位円錐(脊髄の下端を脊髄円錐といいます。円錐の位置が正常よりも下がっている場合、低位円錐と呼びます)を伴う脊髄脂肪腫については、予防的係留解除術を行っています。手術を安全に行うために、術中モニタリングを行います。
③臀裂の異常
臀裂内の皮膚陥凹や臀裂のゆがみは、新生児の2-4%にみられます。そのうちの1割に終糸脂肪腫という脊髄から脊髄神経が出なくなった後の終糸に脂肪が沈着する病態がみられます。当科では脂肪腫による直腸膀胱障害や下肢の麻痺がある場合、画像上、脊髄係留が疑われる(低位円錐がある)場合、手術を行っています。
二分脊椎症は、脊髄係留により、成人してから症状が悪化することもあります。当院では、成人された二分脊椎症の患者様の診察や手術も行っております。
5) 頭部外傷
上述のように、24時間体制で頭部外傷を受け入れており、緊急手術にも対応しています。術後はPICUで専属の小児科の医師の管理の元、厳重な脳圧管理を行います。低体温療法や脳圧のモニタリングを行うことも可能です。
6) くも膜嚢胞
手術は内視鏡や顕微鏡を使って行います。くも膜嚢胞の部位やお子様の年齢によって治療方針は異なりますが、できるだけシャント設置を行わない方針としています。
7) 脳血管障害
もやもや病
http://square.umin.ac.jp/neuroinf/medical/104.html
8) 脳腫瘍
小児慢性特定疾病情報センター
https://www.shouman.jp/search/group/list/1/悪性新生物
お子さんの脳腫瘍は稀な疾患ですが、成人にできる脳腫瘍と同一の病名がつくものも少なくありません。しかし、同じ病名でも成人の脳腫瘍と性質が大きく異なります。腫瘍の長期の経過や、脳を含む体の発達などへの影響などを踏まえて、治療方針を立てていかなければいけません。小児科との連携の下、小児を専門とした脳神経外科医による専門的診療が必要な病気です。
①小児期の悪性脳腫瘍
小児がんの中では白血病についで二番目に多い腫瘍です。神経膠腫(グリオーマ)以外に、髄芽腫・胚細胞性腫瘍などが代表的な疾患として挙げられます。
お子さんは自分で症状をなかなか表現できず、診断もつきにくいことから、腫瘍が大きくなって頭蓋内圧亢進状態(頭痛、吐き気、意識障害)で発見されます。急なことでご家族も大変ですが、早期に頭蓋内圧の制御と病理組織診断を目的とした手術が必要です。手術後は診断に応じ、放射線治療や化学療法を行なっていきます。
手術で採取した腫瘍を顕微鏡で調べる病理組織診断を行いますが、小児の脳腫瘍は非常に種類が多く、診断が難しいケースでは腫瘍の遺伝子検査が必要となることがあります。また、造血幹細胞移植を併用した大量化学療法などの特殊な治療を要することもあります。当院は日頃より大阪医療センター、大阪大学医学部附属病院などと連携しており、最善の治療や診断検査が当院で行えない場合は、速やかに適切な施設へご紹介いたします。
②小児期の良性脳腫瘍
毛様細胞性星細胞腫、頭蓋咽頭腫といった小児期に多い疾患、髄膜腫や神経鞘腫など成人でも多い疾患が挙げられます。症状を起こしている場合を中心に、手術による治療が中心となります。手術後は経過観察をするだけでよい疾患もありますが、良性とされながらも再発を繰り返しやすくその度に症状を悪化させていくやすい腫瘍もあります。部位によっては、繰り返しの手術を必要としたり、長期的な経過も考えて重要な部位への侵襲的な治療をせざるを得ない場合もあります。
また、神経節膠腫や胚芽異型性神経上皮腫瘍(DNT)などのてんかんとの関係が深い腫瘍が小児期に発見されることもあります。こういった腫瘍では、「てんかん外科」の専門的診療が必要です。
患児を一番に考えた低侵襲な診断・治療を心がけています。
1) 低侵襲な診断
頭部や脊髄の検査と言えば、CTやMRIを思い浮かべられる方も多いと思います。昨今は小児における放射線被爆(主にCT)や検査のための鎮静(主に15分以上の安静を要するMRI)による危険性が取りざたされており、検査に躊躇される親御様も増えています。
我々は、侵襲のない超音波検査装置を外来診察室に常設して、CTやMRIをなるべく行わないようにしています。頭部検査の必要な赤ちゃんに対しては、CTやMRIのかわりに大泉門から超音波検査を行います。CTやMRIと違って、超音波検査には鎮静は不要で、外来診察室で簡単に行えますので、診察ごとに脳の状態を把握することができます。二分脊椎症が疑われる赤ちゃんも、通常は脊髄MRI検査が行われますが、背骨が発達していない生後3か月以内であれば、超音波検査で診断することが可能で、MRIを行う必要はありません。ただし、超音波検査で必要と判断された場合は、MRIを行います。
2)低侵襲で安全な手術
近年脳神経外科の分野だけでなく、医療界全体で低侵襲な手術が好まれる傾向にありますが、小児脳神経外科の分野でもより低侵襲な手術方法が行われるようになっています。ただし、低侵襲といえば聞こえがよいですが、いくら皮膚切開や骨の切除範囲が小さくても、合併症があってはなりません。当科では低侵襲手術として、内視鏡手術をとりいれつつ、安全性の確保として、神経モニタリングや磁場式・光学式ナビゲーションシステムを使い、安全な手術を行っています。
3) 血液製剤を使わない手術
未来のある子供たちに、感染症のリスクのある組織接着剤や輸血をできるだけ回避することをこころがけています。通常、脳や脊髄を覆う硬膜を切開した部分から脳脊髄液が漏出しないように、組織接着剤を使うことがありますが、当科では、組織接着剤は使用しない方針としております。大量出血が予想される頭蓋骨縫合早期癒合症などの開頭術の場合、手術前4週間からの鉄剤投与、手術直前の自己血採取、手術中の出血を回収して体内にもどすセルセーバー装置などを駆使して輸血を回避しています。
(件数)
先天性疾患 | 術式 | 2021年 | 2022年 | 2023年 |
水頭症・くも膜嚢胞 | シャント再建・抜去術 | 21 | 18 | 9 |
脳室腹腔シャント術 | 10 | 4 | 6 | |
脳室ドレナージ術 | 5 | 1 | 8 | |
内視鏡手術 | 3 | 6 | 2 | |
二分脊椎症・二分頭蓋 | 脊髄脂肪腫摘出術 | 8 | 11 | 13 |
係留解除術 | 4 | 2 | 1 | |
先天性皮膚洞摘出術 | 3 | 2 | 1 | |
脊髄髄膜瘤修復術 | 2 | 2 | 1 | |
脊髄空洞シャント術 | 1 | 0 | ||
頭蓋形成術 | 1 | 0 | 1 | |
脊髄嚢胞開窓術 | 1 | 1 | 1 | |
頭蓋縫合早期癒合症 | 頭蓋形成術 | 17 | 18 | 26 |
内視鏡支援下縫合切除術 | 5 | 8 | 7 | |
脳圧センサー設置術 | 4 | 2 | 8 | |
頭蓋骨延長術 | 2 | |||
骨延長器抜去術 | 2 | 0 | 1 | |
その他 | 側弯固定術 | 1 | 0 | |
大孔減圧術 | 4 | |||
外傷 |
術式 | 2021年 | 2022年 |
2023年 |
硬膜下血腫 |
硬膜下腹腔シャント術 | 2 | 1 | |
硬膜下血腫ドレナージ術 | 2 | 0 | ||
硬膜下シャント抜去術 | 2 | 2 | ||
開頭血腫除去術 | 1 | 2 | 2 | |
頭蓋形成術 | 1 | |||
硬膜外血腫 | 開頭血腫除去術 | 0 | 4 | |
陥没骨折 | 陥没骨折修復術 | 1 | 1 | 3 |
その他 | デブリドマン | 2 | 0 | |
血管障害 | 術式 | 2021年 | 2022年 | 2023年 |
モヤモヤ病 | バイパス術 | 3 | 0 | 3 |
動静脈瘻・奇形 | 血管内手術 | 2 | 1 | 4 |
動静脈奇形摘出術 | 2 | 3 | 1 | |
開頭血腫除去術 | 1 | 0 | ||
脳室ドレナージ術 | 0 | 1 | ||
その他術式 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | |
脊髄硬膜外血腫除去術 | 0 | 1 | ||
頭皮下腫瘍摘出術 | 0 | 1 | ||
頭蓋骨腫瘍摘出術 | 1 | |||
デブリドマン | 8 | |||
計 | 106 | 92 | 114 |
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氏名 | 原田 敦子 |
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役職 | 主任部長、臨床研究センター器官発達学研究室 室長 |
専攻分野 | 先天奇形(水頭症、二分脊椎、頭蓋変形) |
資格 | 医学博士 |
月曜日 | 火曜日 | 水曜日 | 木曜日 | 金曜日 | |
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午前 | 担当医 | 二分脊椎 (第1週のみ) 原田 |
赤ちゃんの頭の形外来 (完全予約) |
山中 赤ちゃんの頭の形外来 (再診、第2週) |
担当医 |
午後 | 手術 | 原田 | 原田 | 二分脊椎(第3週) | 手術 |
〒569-1192
大阪府高槻市古曽部町1丁目3番13号
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