2023.12.04
産婦人科 医師 細野 佐代子
骨盤臓器脱をご存じでしょうか。子宮脱とも呼ばれ、体の中にあるべき「子宮・膀胱・腟」が股間の外に出てくる、女性特有の病気のことです。
子宮脱になると、以下のような状態で、日常生活に不都合をきたします。
社会の高齢化とともに、骨盤臓器脱でお悩みの女性は増えています。閉経後の女性の約4割が発症するとも言われますが、恥ずかしい等の理由で我慢される方が多くいます。
ヒトは二本足で立つがゆえに、子宮や膀胱には、下に向かう力(外陰から外に押し出そうとする力)がかかります。これに対抗するのが、膀胱と腟、あるいは直腸と腟の間にある腟中隔です(図1)。しかしながら、腟中隔が“お産の時に引き伸ばされて裂ける”、また“加齢により弱くなる”と、子宮・膀胱・腟を支えることができず、股間から外に出てきます(図2)。
※図1:膀胱・子宮・腟は腟中隔に支えられて、骨盤内に位置します。
※図2:腟中隔が傷つき、弱くなると、子宮・膀胱・腟を支えることができず、脱出します。
治療法には、ペッサリーと手術があります。
ペッサリーとは、子宮や膀胱が降りてこないよう、腟内に入れておく丸い器具です。ペッサリーは、腟の壁への食い込みや腟炎を防ぐために、定期的(半年間のうち1ヶ月間程度)に外して、腟を休ませる必要があります。
しかし、外している間に症状が再燃する方、腟にペッサリーを入れることによる不快感が強い方、ペッサリーが自然に外れやすい方には、手術による修復をおすすめします。
高槻病院 産婦人科では、『自家組織(患者さんご自身の組織)を用いて、弱くなった腟中隔を再建する手術(腟壁形成術)』を行なっています。
腟の左右奥に隠れている分厚くて弾力のある腟中隔を引き出して縫い合わせることで、新しく頑丈な腟中隔に仕上げます(図3)。
2017年以降、必要性のある方を除いて、原則、子宮摘出は行なわない術式に変更し、2021年までに手術をした118人(52〜88歳)のうち、再発は8人(再発率7.3%)でした。
これは世界の水準(再発率30%以上*1)を遥かに上回る成績で、この手術手技と成績は、英文の医学雑誌にも掲載され、世界から認められました(*2)。
※図3:腟中隔を修復・再建し、子宮・膀胱・腟を元の場所に戻します。
私たち産婦人科では、子宮がんや卵巣がんなど様々な手術を行いますが、骨盤臓器脱の修復術は患者様から最も喜ばれる手術です。恥ずかしさから人知れずお悩みになるのがこの病気の特徴です。一人でも多くの方々に、この手術を知っていただき、快適な日常生活を取り戻していただきたいと願っています。
もしかしたらこれって子宮脱かも?と思われたら、まずはかかりつけ医にご相談ください。
高槻病院 産婦人科では、毎週水曜日の午前中に「骨盤臓器脱外来」を行っています。
*1: Maher C, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2016; 11(11): CD004014.
*2:Oishi T, et al. J Obstet Gynaecol Res. 2023; 49: 1424-1428.