2022.08.12
2022年8月12日
小児脳神経外科 原田 敦子
赤ちゃんの頭の形は、昔は「自然と治る」とされてきましたが、頭の形への関心が高まるとともに、近年では欧米と同様に日本でも頭蓋形状矯正療法(ヘルメット療法)による、頭の形の矯正が普及してきました。頭の形は乳児期に決まってしまうので、大人になってから形を変えることはできません。頭の形が良くないと、大人になってからもヘアースタイルがうまく決まらなかったり、眼鏡の調整が少し難しくなったり等の問題が出てきます。
また見た目の問題だけではなく、赤ちゃんの頭の形のゆがみ等の変形は、まれに病気が隠されていることもあるので、その確認も重要になってきます。
ヘルメット療法は、オーダーメイドで作成したヘルメットを1日のうち23時間近く、約半年にわたり、調整をしながら装着することで、きれいな頭の形に近づける治療法です。
出っ張っているところをへこませることはできませんが、突出している部分はこれ以上張らないようにし、へこんでいる部分の成長を促すことで、頭全体が丸い形になるように調整していきます。
治療開始時期は、首がすわる生後3ヶ月くらいから、7ヶ月くらいまでの間で開始します。そこから約6ヶ月間治療を行います。
大体の頭の形が、1歳半くらいで決まると言われています。しかし1歳を過ぎてくると自我が芽生えてきて、手先も器用になり、子ども自身がヘルメットを脱ごうとしてしまいます。頭が柔らかく、成長も著しく、かつヘルメットをかぶることが赤ちゃん自身にストレスと感じにくい時期に初めてしまうのがいいと考えています。
実際、ヘルメットは300g程度と非常に軽く、基本的にお風呂以外の時は、ずっと着用します。今まで580人以上の赤ちゃんのヘルメット療法をしてきましたが、着用ができなかった子にはいまだ出会っていません。
ご両親によっては、頭の形のゆがみや絶壁が、将来子供の発達に影響が出るのではと心配される方もおられます。しかし、そのような発達への影響や健康被害について断定している論文があるわけではありませんし、頭の形を治せば正常な発達をたどれるというわけでもありません。現時点では見た目の問題であるため、健康保険の適応外でもあるわけです。
ただし、頭の形がゆがんでしまった原因を確認する必要はあります。
多くは胎内や出生後の向き癖によるものですが、まれに頭蓋骨縫合早期癒合症や小頭症といった、脳の病気が潜んでいる場合があります。
ヘルメット療法を開始する前の検査は、脳外科医がしっかり状態を確認する必要があります。高槻病院では、レントゲンや頭部CTを撮り、専門的な知識を持った小児脳神経外科医が診断を行います。
また脳だけではなく、股関節脱臼や斜頸等の体の傾きも確認し、頭の形に影響している他の要因がないかを探ります。ヘルメット療法は、総合的に赤ちゃんを診て、何か別の病気が原因となっていないかを確認してからスタートします。
ヘルメット療法の対象となる赤ちゃんの頭の形は、左右のゆがみ、後頭部がまっすぐな絶壁、頭の横幅が広くハチがはっている、頭頂部が突出している等です。
病院で計測を行い、ヘルメット療法適応の可否を判断します。
数値が軽度であればヘルメット療法をお断りする場合もありますが、それは成長とともに改善が見込まれ、ヘルメット療法をしてもしなくても、結果が同じになる可能性が高いからです。また、赤ちゃんの体位を調整する指導で、改善をはかります。実際、高槻病院の赤ちゃんの頭の形外来では、受診に来られる約3割の方がヘルメット療法の対象となっており、全員がヘルメット治療をしなければならないわけではありません。
計測はご自身では難しいので、赤ちゃんの頭の形が気になる方は、かかりつけの小児科にご相談されるか、高槻病院「小児脳神経外科外来」をご受診ください。
※ヘルメット治療の適応の基準については「赤ちゃんの頭の形外来」のページでもう少し詳しくご紹介しています。
赤ちゃんの頭の形外来
高槻病院で取り扱っている赤ちゃんのヘルメットは、アメリカ製のミシガン大学式ヘルメットと、日本製の夢人(ゆめっと、補装具工房スタンス)の2種類です。
アメリカ製と日本製の大きく違う点は、納期とPMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)の承認の有無です。
納期に関しては、ヘルメットはオーダーメイドですので、アメリカ製は作成依頼をしてから納品まで約3週間かかります。輸入状況によってはそれ以上かかる可能性もあります。日本製は約2週間です。
PMDAについては、アメリカ製は承認を受けおり、そのため穴の位置は決められたものになります。日本製は未承認ですが、穴の位置をカスタマイズすることができます。ヘルメットの上部にある穴は、主に通気のためにあるのですが、日本製では穴の位置を調整することが可能です。頭頂への張りがある場合には、頭頂部の穴を小さくするなど、日本製は細かい調整が可能になっています。
あとはデザインもありますので、基本的にはお好きなものを選んでいただけます。最近では色々な柄があり、楽しく前向きに治療期間を過ごせると思います。
費用に関しては、治療前の検査等は保険診療となります。その後ヘルメット療法をすることになれば、自費診療となり、アメリカ製・日本製いずれも45万円(税込)です。これには3~4週間ごとの診察代も含まれます。